きみのことが好きだよ

きみがぼくのこと知らなくても

緞帳の奥は暗闇じゃない

デビューしたら安泰だと思っていました。

 

私は第一線で活躍するいわゆる推されジュニアの担当をしていて、とにかく事あるごとにデビュー、デビューと言い続けてきました。この夏、ユニットを与えられて活動していた時は特に。あの時はデビューさえしてくれれば、ハコはどんな形でもいいと思ってた。今もそれは変わらず、ただ紫耀くんがデビューさえできれば、隣は誰でもいいと思っているけれど、*1どんな形でどんな手段を使ってでもいいから、デビューしてほしいって思ってました。

 

デビューしてくれれば、彼が私の前から姿を消すことはなくなる。そう思っていて。ただでさえ紫耀くんは、ふいっとどこかに行ってしまいそうなよく分からない雰囲気があるから。紫耀くんを掴まえておける-足枷をつけられるのがデビューだと思っていました。ステージの上で、ずっと踊っていてくれる。ものすごくチープな例え方をするなら羽をもぎとったら飛べなくなるでしょう?って。本気でそう思っていました。

 

けれど本当はそうじゃなかった。デビューしても、私の目の前からいなくなってしまうことはある。それは、ホームページのたった数行の文章であったり、週刊誌の数ページであったり、はたまたウェブの連載であったり。そんなことで知らされる。紙切れ一枚にハンコを押さなければ、彼はステージを降りることができる。

 

アイドルとファンはロールプレイ。そう言っている人を何人か見ました。アイドルとファンを互いに演じている。暗黙の了解で成立した、あくまで茶番であると。アイドルという虚像に理想を重ねて、実像から現実を引き算して。アイドルがそうであると同時に、ファンもまたそうで。普段の生活をこなしている自分と、アイドルを応援している自分は違うベクトルにいる。でも、普段の自分(ファン)が学校を辞めようと転職しようとアイドルには関係ないけれど、アイドルが仕事を辞めたらファンはもう、虚像に理想を重ねることはできない。あっという間にあぁこれってごっこ遊びでしかなかったんだな、って。現実に引き戻される。

 

私の目の前からいなくならないでほしい。ずっとこのまま、舞台に立っていてほしい。私の何と引き換えでもいから、ステージから降りないで。

 

紫耀くんが辞めてしまったらどうなるのかなぁと、ショーケースを拭きながら考えていて。たぶん何か月かはずっと引きずって、もしかしたら現実に支障をきたすかもしれないけど、時間が経ったらきっとすこしずつ忘れて、私はたぶん五関担になると思った。代用のできる存在ではないけれど、そう、言ってしまえば保険をかけているようなものでもあると思ったから。ぽっかりあいた穴を埋めてくれるのもまた、同じような虚像なんだろうなって。分かってしまった自分の、どうすることもできない虚しさ。いつまでも茶番を演じることでしか自分を保てない気がする。

 

緞帳の奥は暗闇じゃないし、エンドロールは走馬燈じゃない。幕が下りても、映画が終わっても私の生活は続いていく。続けていくしかない。ラストシーンはスタートラインでしかなくて、明かりがついた瞬間から私は実在の人物になる。つまらないくだらない日常に淘汰される非日常であっても、圧倒的に質量の多い日常をあくまで全うするしかない。だからこそ、たとえ儚くても-儚いからこそ非日常は日常を支えうるのだと思う。アイドルってそういう存在だ。

 

紫耀くん。どうかアイドルを辞めないで。その1枚の紙切れにずっとハンコを押して。私の目の前でなんでもない顔をして踊り続けて。あなたの今までとこれからを見届けさせて。私にはそれしかできない。

 

デビューすれば、簡単に辞めることはできなくて、自分一人で幕を下ろすことはできなくなる。でも今の紫耀くんは、それができてしまう。だから怖い。彼を繋ぎ止めておける重りをもっと背負わせたい。じゃないとどこかに行ってしまいそう。重りを背負っても何でもない顔をしてヘラヘラ笑う彼が好きだ。どうしようもない。一体どれだけこういうファンの呪詛を引き受けているんだろう。ごめんね。

 

どうしようもなく好き。知ってしまったからこそ、もう戻ることはできない。紫耀くん。私のためにずっと、ステージの上にいてね。私は私のためにしかファンをやっていられないから。私にとっての、日常のための非日常だから。

 

Title:The End / Base Ball Bear

*1:隣にいたらいいな、と思う子はいる。