きみのことが好きだよ

きみがぼくのこと知らなくても

正式に入り口から未来に向かおうか / ジャニオタ文芸部第1回『チケット』

ある人はその郵便物が届いた時に冷蔵庫にキャベツがあるか確認しに行くと言った。なんでもキャベツが冷蔵庫に入っていれば郵便物の中身は良いもので、なければ悪いものであるらしい。

またある人はブロマイドに向かって拝むと言った。神様お願いします。どうかこの子の近くで、と。

 

その郵便物を私の祖母は「空色の封筒」と言った。あれはちょうど1年前のことで、松竹座で行われるクリスマスコンサートの当落後のことだった。勝手に祖母の住所を借りて申し込んだあと、祖母から電話がきた。折り返しかけると私宛の郵便が届いていることを教えてくれた。お礼を言って封筒の色を聞くと「ちょっと待って確認するから・・・空色の封筒ね」と言った。空色。まるで空から届いた贈り物のようでとても嬉しかった。一週間後に祖母の家まで取りに行くと、今までで一番ステージに近い席が印字されたチケットが入っていた。

 

空色の封筒に入った特別な、私だけのチケット。もう何十枚手元にあるか分からない。ピンクブルーグリーン。私はいつも封筒を開けて一瞬だけ祈る。目をぎゅっとつぶって、どうか良い席でありますようにと願って宛先と共に綴られたチケットを見る。それが叶ったことは、片手で数えられるほどしかないのだけれど。

 

そういえば、例のファンミーティングのときもチケット制だったことを思い出した。当選メールと身分証を入り口で見せると、ランダムでブロックと座席の書かれたチケットが手渡される。まさか手渡されたときにそれが特別なものになるなんて、思いもしなかったのに。

自分の座席番号が自分の好きなアイドルに呼ばれたとき、何を言われているか分からなかった。私は頭の中で学籍番号を唱えていて、とにかく早くこの時が終わればいいとすら思っていたのだから。隣の人の席を見ると、呼ばれた番号のひとつ前だった。振り返って私の座るイスに貼られた座席番号を見ると、呼ばれた番号のシールが貼ってあった。周りの人が私を見ていることが視線で分かった。ステージ上ではもう一度、この席の人いませんか?と私の座席番号を呼ぶ声がした。慌てて立ち上がった拍子に持ってきていたビニール傘が音を立てて倒れたことも、鮮明に覚えている。

 

 

チケットに印字された座席番号は私だけに与えられた特別な時間と空間だ。映画は時間と空間を強制する芸術だと何かの評論文で読んだけれど、コンサートや舞台もそうなのだろう。ただ映画と違うのは、舞台と客席に隔たりはなくて、客席の熱量がそのまま舞台上の演者に伝わること。コンサートや舞台のチケットは、ただ芸術を鑑賞するための切符ではなくて、共に作りあげるための同意書なのではないだろうか。その時にその場にいた人だけが作りあげることのできる瞬間の芸術。チケットを渡されて、彼らと私たちは約束を交わすのだ。その瞬間に。

 

Title:10クローネとパン/AKB48

 

 

ichigonokimi.hatenablog.jp

こちらの企画に参加させていただきました。ありがとうございました。

前回のお題は『担当』で散々語りつくした後だったので参加は見送りました。今回ようやく参加できて嬉しかったです。でも全然文章はうまく書けなかった…支離滅裂ですね。精進します。