きみのことが好きだよ

きみがぼくのこと知らなくても

どこかで待ち続けている僕らの未来

喧噪に包まれる劇場に柔らかいベルの音が鳴る。決して騒がしくはなく、それでいて浮足立ったようなざわめきはその音によって水を打ったように引いていく。開演5分前のベルが幕が上がるまでのカウントダウンのはじまりだ。

 

新幹線の改札口からまっすぐ歩くと5番ホームが山手線左回りのホームへ繋がっている。目的地は一つとなりの駅。電車を降りると都会らしいあわただしさが私を迎える。ここがホームになることはきっと永遠にない。そんな予感めいたものを抱きながら足早に冬の有楽町を歩いた。閑静なオフィス街の隅にある築105年の劇場前はいかにも分かりやすくおしゃれをした若い女の子たちで賑わっている。赤く毛足の長い絨毯を踏み中へ歩を進めるとその扉の向こうは見えない虚構の壁で仕切られた別世界になる。

 

冬に見た君は知らない顔をして宙を舞っていた。

 

高速バスの1列目の環境が劣悪だと知ったのは3月の最終土曜日だった。足も延ばせない上にいくつもの停留所に停車するものだからいつまでたってもたどり着かないような気持ちになる。高速バスと市営バスと地下鉄を乗り継いでようやくたどり着いたホールの最後列で遠さに軽くショックを受けたのだった。客電が落ちるとセンターステージに白い幕が下ろされた。

 

春の君は1人で何かを背負って勝つために歌っていた。

 

夏の異常気象は私の頭をおかしくさせる。気温のせいではないことくらい分かっていたけれど。残業続きのバイトを普段ならあり得ない速さでこなして、自転車の籠にスーツケースを押し込むと終電めがけて駅まで猛スピードで駆け抜けた。疲れ果てて目が覚めると夜中の余韻が抜けきらない気だるげな新宿で、まだはっきりしない意識の中ハンバーガーショップで日が昇るのを待った。一年前は迷いに迷った六本木も通いつめればもう目的地までは迷うことがない。ユニットの名前が入ったグッズはこの公演が特別なものだと知らしめるのに十分だった。

 

夏の君は新しい環境で変わらないように振る舞っていた。

 

デビューへのカウントダウン。私が今年肌で感じたものは間違いなくそれだった。春先に与えられた新曲はゴールデンウィークには完成していたし、当日券の記録を塗り替えた公演は目に見える形で需要を示した。夏の公演はどこまでできるか試される場であっただろうし、スポンサーにも数字を還元することができた。東京ドームでアウェイの中歌ったあの日のオールスターゲームは前例のない大仕事で、未完成な彼らができる最高のパフォーマンスだった。

 

でも、デビューが決まることはなかった。

 

ジャニーズジュニアにとってデビューは一つのゴールでスタートラインだと思う。ほんの一握りが手に入れられる絶対的な権利と地位。それがデビューだ。これほど試されるのか、と時に残酷さすら感じるほどの仕事を与えられていたのに彼らが、彼がデビューすることはなかった。カウントダウンなんて、0の瞬間がなければどれだけ数えても意味がない。0になってはじまって初めて意味を成す行為だ。だから、私の感じたものは間違ってはいなくても意味はなかった。0にたどり着く前に霧散してなくなったのだから。高揚感だけを残して。

 

2015年、平野紫耀くんを一番に見ながら過ごしたことに何の後悔もない。大きな怪我も病気もなく一年を終えられるであろうことに感謝をしながら、それでも少しの恨みを残して私は2016年を迎える。公演中の舞台では出演順は3番手。ジュニア内では1番手。そんな中途半端な立場のまま年を越してしまうことが嫌だ。2015年の8月20日がターニングポイントだったと、きっと担当をする限りは忘れないのだろう。それでも諦めずに止めることなく舞台に立ち続けてくれる彼に、1年の感謝と少しの罪悪感を抱いて今年を終えよう。

今もまだカウントダウンは続いているのかもしれない。いつかくる0の瞬間に立ち会うために、私はこうして。その瞬間に滲んだ私の視界から光が差すのを、あなたなら見せてくれるでしょう?なんて。いつか、を共に迎えられますように。1年間ありがとう。

 

Title:ナミダあふれても/SISTER JET

 

ichigonokimi.hatenablog.jp

ジャニヲタ文芸部2回目に参加させていただきました!お題がカウントダウンということで、キンプリを追いかけた当事者が書くべきことはこれかなと笑。いやでも本当に夏はデビューへのカウントダウンだと信じて疑ってませんでしたからね…来年こそ0の瞬間を迎えたいです。社長頼むよ本当に…!!

タイトルは世界で一番好きなバンドの大好きで大切な曲です。

SISTER JET ナミダあふれても MV - YouTube