僕らのドラマに花束を

どんなときも私たち客席側は、舞台に立つ人を見送ることしかできない。引き留めるなんてもちろんできなくて、ただ去ると決めた人に、はなむけの言葉を贈ることくらいがせいぜいだ。

 

5月3日。高校生の時からライブに通っていたバンドのボーカルが脱退した。ボーカルの脱退ってなんだよって感じ。そもそもそのバンド自体、ボーカルのパフォーマンスが8割みたいなところがあった。歌は上手くないどころかむしろ下手だと思う。演奏もまぁそんなに上手くないんだろうなと思う。曲と歌詞は某バンドのパクリだと言われて叩かれてたけど、私はその元のバンドをよく知らない。出会った頃も売れてなかったし、結局その日まで売れることはなかったな。それでも私は大好きだった。

 

なにが好きだったのか、イレギュラーすぎてカテゴライズできない。青春パンク?なのかなんだか、私は別にその類の音楽が好きというわけではないし、ただなんか、はじめて見た時からすごかった。高校生のとき、たまたまサーキットイベントで友達が見るからという理由で見ていただけの、ただの暇つぶしの音楽になるはずだった。どこのバンドも四つ打ちの藤原基央みたいな声の、無個性の塊で、退屈を持て余した私に彼らの見せた景色は全く別物だった。だいたい全然ガラガラのフロアにダイブするってどういうこと。ドラム缶の上を歩こうとするって何。お客さんからビール貰って飲むの。なんか天井に張ってあるケーブル掴んでたこともあったな。とにかくやることがめちゃくちゃだった。舞台の上に立って歌ってるだけじゃなかった。フロアに飛び込むボーカルってきっと探せばたくさんいるんだろうけど、私は彼以外知らない。あんなにめちゃくちゃなの、彼しか。

 

下手くそな歌を汗だくで歌いながらフロアに飛び込む彼が、喋り出すとヘロヘロで全然喋れないことも、ステージを降りるとちっちゃくなって愛想笑いばっかしてることも、それも含めていいなって思ってた。高校生のとき、本当によくiPodから流してたな。録音で聞くともっと下手くそで、あぁライブのほうがいいなぁって思って、売れてないからあんまり名古屋来てくれなかったけど、来るたびにほぼ毎回通って。高校、大学、社会人とずっとライブに通ってたバンドなんて片手に収まる。その数少ない1だった。

 

愛されてたんだ。「もっとやれ」なんてお客さんから野次が飛ぶバンドだよ。名古屋のライブはいつも決まったお客さんしかいなくて、毎回毎回「もっとやれ」と誰かしら野次ってたし、だいたいそれに応えてくれてた。最後の名古屋のライブ、いつものお兄さんが泣きながら野次飛ばしてて、私ももらい泣きしそうになった。ずるいよねぇ最後になにがいいか聞いて、三億円事件もidolも両方やってくれるなんてさ。三億円事件、一時期私がライブ行くと聴けない曲みたいになってて。みんな好きなんだよね、あの曲。

 

名古屋はちょっと湿っぽかったけど、本当に最後の新宿は全然脱退ライブって感じじゃなかった。前回ベースとドラムが抜けた時のほうがそれらしかったな。まぁ、彼が彼だからみたいなところはあるよねきっと。超満員のワンマンライブって感じだった。最後って感じがしなくてずっと楽しくて、でもやっぱり何度か泣きそうになって。「ロックンロール行かないでよ 君でなくちゃダメなんだ」なんてそれあなたが歌うの?って思っちゃったよね。本当は行かないでほしかったけど、引き留めるなんてできないんだなぁ。

 

彼らには私が想像する以上に辛い現実とか過酷な試練とかがきっとあって、バンドってやっぱり奇跡なんだって、いろんな分岐ルートがメンバーの人数分あって、全員が全員このバンドを続けたいとか、このバンドで鳴らしたいとか、そう想って、もし少しでも別の分岐を選択すると形が保てなくなる。泥だらけで転がってきたよね、彼らも、私も。全然綺麗じゃなかった。でも私は、大好きだった。彼の歌が、曲が、演奏が、歌詞が、ライブが、人柄が、全部大好きで、唯一無二で、青春だった。でももうね、終わらなきゃいけないんだね。いつまでも、なんて夢でしかない。

 

THE 抱きしめるズと渡辺ヒロユキと私のロマンに大きな拍手を!でも絶対またどっかで会う気がしてる!出会ってくれてありがとう!


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